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2009年05月12日

宣伝部物語〜エピソード1〜

今回の『宣伝部物語』でとりあげているフランスのセルジュ・ルタンス。
彼はクリスチャン・ディオールや資生堂のイメージクリエイターを務めた世界的なクリエイターです。
ルタンスの作品は、これまでも作品集などに掲載されたことがありますので、本書でもスムーズに掲載できるものと思っていました。
ところが、資生堂の担当の方を通じて、許可をとっていたのですが、ルタンス側からNOとの返事が。
ルタンスの事務所によれば、今後はルタンス自身がインタビューなど直接関わったものだけに作品の許可を出したいというのです。

これはぼくにとって、まさに青天の霹靂でした。
元々ルタンスは芸術家肌の天才で気難しい所がある、という噂もありました。
資生堂の方も粘ってくれたようなのですが、「こうなるとこちらでは、これ以上どうにもならない」とのこと。
話自体が作品ありきの内容でしたので、ここで一作品も掲載できないということになれば、掲載する意味がなくなります。
かといって、これ以上無理をいうことはできません。もとより、ここまで協力してもらえたということだけでもありがたいわけです。

そこで、ルタンス編の文章を資生堂へ送り、いちかバチか「せめてルタンスのかかわった商品画像を掲載できないか」とお願いしました。
ルタンスの広告作品があるのとないのとでは、まったく違うものになってしまう。
資生堂であれば、文章の内容がわかれば、それを誰かが理解してくれるかもしれないと思ったのです。

他の会社の原稿も書き進み、締切の日が近づいてきました。
入稿まじかになって、資生堂の担当者から、内容を読んだあるクリエイターから「ここに商品画像が入るのは不自然ではないか」という意見があったという連絡が入りました。
「ここに入るべきは、やはり広告作品。この文章をフランス語に訳して読んでもらい、広告作品が掲載できるよう、再度ルタンスにお願いしてみてはどうか」と提案してくれたのです。
願いが通じた。
「でも、まったくの無駄足に終わるかもしれませんよ」とは、担当の方。
しかし、これで一筋の光明が見えてきました。
ぼくはすぐに編集部にお願いし、ルタンス編の文章を一日でフランス語訳にしてもらって、資生堂に送ったのでした。
それから、一週間ほどして、いよいよ入稿しなくてはならないという時期になって、一通のメールが届きました。
「ルタンス画像許諾とれました! 」
資生堂からのメールでした。

一時は数ページまるごとカットすることも考えたのですが、こうして資生堂編は無事完成したのでした。
偶然ですが、翻訳者は以前ルタンスのインタビューをしたことがあるとのこと。
翻訳の良さも左右したのでしょう。
本は執筆者、編集者、校閲、DTP、取材先の協力、今回であれば翻訳者など、多くの人の手によって完成するのです。
今回の本は、まさにそれを痛感した一冊でした。
最後に資生堂の印象ですが、やはりクリエイターが多く在籍する企業は、クリエイターやクリエイティブなことに対して敬意を払い、大事にする意識が高いと感じました。
今後もどのような作品を提供してくれるか、楽しみな企業です。



投稿者 Toshi : 2009年05月12日 22:12

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